ちぎみゆ小説「再会」〜観劇と公開収録エピソードより〜




ちぎみゆ小説「再会」

9月18日の早霧せいなさんお誕生日記念に、

ちぎみゆ小説(ぽいもの)3作目を書きました。

ちぎさんの公開収録に向かう前日の設定です。

エピソードを組み合わせて脚色した創作ものになりますので、温かい目で読んで下さる方のみ下記にお進みくださいませ。

あとは、少々陰鬱な感じになってしまったかもなのでご了承頂ければ。

ゆっくり、じっくり読んで頂けると嬉しいです。

「再会」

季節は移ろい

私への思いに

 

もっと自信が持てたのなら

 

もっとラクなのに…

 

 

もう、9月か。

 

退団してからひと月以上経った。長崎へ帰郷したり、次の仕事へ取り組んだりと、わりと慌ただしく過ごしている。

 

なかなかできなかった家族との旅行もようやくできて、リフレッシュもできた。

 

そして引っ越し。

 

東京での新しい生活。

 

家財道具を揃え、持ってきた思い出の写真を飾る。

 

舞台の真ん中に立つ自分。

 

そして雪組の仲間たち。

 

そこには笑顔が溢れていて眩しく感じられる。

 

あとはゆうみちゃんとのツーショット。

自分にもこんな顔ができたのかと驚く。彼女も本当に幸せに満ちあふれた表情だ。

 

すでに、懐かしい。

 

自分はもう次へと動いている。

 

私は、はたから見れば順風満帆に見えるだろう。

 

実際、普段は新しいステージに向かうことにワクワクする気持ちが大きい。

 

しかし夜一人、ふと考えてしまうときもある。

 

一つだけ、心に引っかかっていること…

 

それはこの子のことだ。

 

私の元、嫁。

 

あまり「元」とは付けたくないのだが。

 

私たちの関係はフィクションだと言ったことがある。

 

現実、そうでなければならないからだ。

 

しかしこれまでも、彼女の私に向けるまっすぐな眼差しを感じると、その気になってしまうというか、フィクションを超えてしまいたくなる衝動に駆られた時もあった。

 

それだからこそ、自戒の念を込めて言ったのだ。

 

あまりいい言葉ではないが、分かりやすく言えば、私たちは商品だ。

 

商品が商品をどうこうしていいわけない。

 

こんな時は、娘役が羨ましくなる。

 

愛を全面的にアピールできるからだ。

 

私たち男役はそれを受け止めることはできるが、それ以上は許されないことなのだ。

 

写真の彼女から目を離し、窓際に向かう。

 

東京は長崎のように星は見えないが、眼下に広がる夜景は宝石箱のようだ。宝塚のあの舞台も思い浮かぶ。

 

….

ゆうみ….

 

 

離れている時間というのは少なからず私を不安にさせた。

 

頭では分かっている。おそらく会えば何一つ変わらず今まで通りにしてくれるだろう。

 

きっとそうだ。

 

そう思いたい。

 

そうであって欲しい。

 

しかしもしも、そうでなかったらー…

 

微妙な「なにか」が変わってしまったのではないか。

 

心の奥がチリリと鳴った。

 

彼女が髪を切るということ

 

退団後、彼女の一番の変化と言えば、髪の毛だ。

背中まであったロングヘアーをバッサリと切った。

 

卒業して数日後に…

 

切ったあとは私のところにも写真付きで連絡をくれたが、私は驚きとともに一抹の不安を抱いた。

 

たしかにかわいい。

 

私の見たことのないゆうみちゃんだった。

 

だが、私が幾度と背中を抱いたときに優しく触れた髪はその写真の中にはなかった。

 

私との思い出の一部も切り取られたかの錯覚を覚え、軽く混乱した。

 

ゆうみちゃんは退団後、どのように変化していくのか。

 

在団中、「私」と「早霧せいな」は、ほぼ同じ人物だったが、彼女の場合はどうか。

 

トップ娘役ということで、本来の彼女の一部である活発さは努めて抑えていたのだろう。

 

髪を切る、ということで彼女は娘役のベールを脱いだのだ。

 

知らない間に知らないところでなにかが変化してしまったのではないか、という漠然とした不安。

 

切った髪を私の手の中に残し、軽くなった彼女は、どこかへ飛びたってしまうのでは?

 

契約

 

いつかは彼女には誰かと結婚して欲しいとは思う。

 

いつまでも私の方に向かせておくわけにはいかない。

 

私にはなんの保証のある言葉も言えない、できない。

 

しかし、実際、私自身がその現実を受け入れられるのか?

 

宝塚という枠を出て芸能界に身を置けば、おのずと若いイケメンたちがこぞって彼女に寄ってくるだろう。

 

その中にお似合いがいたら?

 

彼女が彼のために紅を引き、笑いかけたり拗ねたりするのを祝福の目で見られるか?

 

彼のために恍惚の表情を浮かべることに耐えられるのか?

 

窓に映る自分に気が付き、一瞥をくれるとカーテンを一気に閉め、ソファにどかっと深く腰を下ろす。

グラスに映り込むライトの光。

 

唇にギュッと力を入れる。

 

にわかには受け入れがたい。

 

彼女が所属事務所としてユニバーサルミュージックと契約したことに一番安堵したのは、実は私だ。

 

舞台のガッツリした絡みはとりあえずはないだろう、と。

 

私が3年もの間、薄皮一枚の距離を残し、確保し続けた聖域にやすやすと踏み込まれるのは釈然としない。

 

 

再会

 

この前は久しぶりに彼女に観劇で再会を果たすことができた。

 

彼女と会うのは、楽しみではあったが、少し緊張もしていた。

 

変わらぬ笑顔。

 

やはり、髪の毛を切ったゆうみちゃんは新鮮でドキッとする。

 

目を合わせ、瞳の奥を確認することで、私はようやくホッとすることができた。

 

私への眼差しは何一つ変わっていなかったことに、安堵した。

 

この安堵の大きさは不安の大きさでもあった。

 

知らず知らずのうちに合わない時間は、私の不安を増幅させていたのだ。

 

観劇の間中、私たちは満たされていた。

 

はじめに目を合わせたら、あとは隣にいるだけでいい。

 

言葉はなくとも、こんなにも伝わってくる。

 

彼女も少なからず思うところがあったようだ。

 

彼女の思いがどっと私に流れてきた分、私の思いもきっと彼女に流れていっただろう。

 

 

…幸せだった。

 

 

ただ隣にいるだけで。

 

隣に彼女がいるだけでこんなにもホッとするとは。

 

離れていたからこそ気が付いたのだ。

 

おそらく彼女も同じ思い。

 

通じ合っていた。

 

舞台が暗転するたびに彼女がくっついて来るのが恥ずかしいながらも嬉しい。

 

もう少し、いや願わくば最後までこの思いを大切にしたい。

 

変わりゆくすべての中で変わらないこの思いを。

 

イケメンたちには、いま暫くは近寄らないようにしてもらおう。

 

私たちのスタイル

 

明日は公開収録だ。

 

そこで私は爆発してみせよう。

 

これまで抑えていたものを一気に。

 

写真を撮る時もあるだろうが、私たちは必ず私たちのスタイルで撮りたい。

 

他のポーズをリクエストされても、だ。

 

彼女の腰を抱きよせる。

 

これが私たちのスタイルだ。

 

だって、初めてゆうみちゃんに会った時に、すでに腰を抱いていたのだから。

 

「あなたは、私の方だけを見てたらいい訳じゃないよ」

と言ったあの日から。

 

収録に来て下さるお客様には、ライフが10個あっても足りないかもしれない。

 

覚悟して臨んで欲しい。

 

私たちの距離に入ってしまえば、あとはこちらのものだ。

 

私はもう一度、飾られた写真を手に取り、思った。

 

夫婦漫才は距離感が大事だ。

 

とりあえず一つの椅子に二人で座らせてもらおうか。

 

グラスの中の氷が融け、カランと音を立てた。

 

 

 

(完)

参考にしたエピソード(主なもの)

いろいろ混ぜ込んでありますが、主なものを。

○8月31日に再会し、一緒に観劇したこと。

○「退団してまだ1カ月半なので(咲妃さんは)変わってないです。ホッとしました」と語ったこと。(毎日新聞より)

○ちぎさんが収録後のスチール写真撮影時、カメラマンの恋人つなぎリクエストを断り、「私たちのスタイル」として腰に手を回して撮影に臨んだこと。

○二人が初めて会ったころにも腰に手を回して「こうやって広く、2人で同じ方向を見るんだよ」と言ったこと。

○収録時、ちぎさんとゆうみさんが一瞬一つの椅子に座ったこと。

○「娘役のベールを取り払ったパフォーマンスに挑んでみたい」(咲妃みゆさん:読売新聞夕刊)

秋の夜はいろいろなことが思い浮かびます。

センチメンタルな気分になりやすいですね。

(ラストの椅子の話は私見というか、私の希望でその前にブログに書いていたことが現実になったものでした。

とても驚きましたし、嬉しかったので、入れさせてもらいました。)

イメージ百人一首

あしびきの 山鳥(やまどり)の尾の しだり尾の   長々し夜を ひとりかも寝む

柿本人麿

(垂れ下がった山鳥の尾羽のような長い長いこの秋の夜を、離ればなれで寝るという山鳥の夫婦のように、私もたった一人で寂しく寝ることだ)

ちぎさんも秋の夜はふと物思いにふけることもあるかも、という妄想でした。

おわりに

しばらくは書けないと思いきや、WOWOW公開収録の情報を得て創作意欲が湧きました。

読みたい人がいるのかが不明ではありますが。

またまたゆうみさんが登場できずすみません。

(これしかできないから)

もしも読み物として楽しんで頂けたのなら幸いです。

お読み頂きありがとうございました。

(3700字超え、お疲れ様でした)

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